人形浄瑠璃ヌーベルバーグ

 源氏物語をしばし離れて、文樂人形芝居とのコラボレーションで郡上大和におりました。
 文楽界から独立、木偶舎を立ち上げ人形浄瑠璃ヌーベルバーグと称して新しい作品を次々と創作される勘緑さんと、作曲家住友紀人さんのユニットに加えていただき、浄瑠璃節に代わって語りをさせていただきました。
 昨年までの「姥捨山」に続き今年は「母情落日斧」。この土地で起こった大変重く不条理な悲劇に基づいた作品、「助けて!」「こわい!」「恨めしや」「ぎえええええ〜!!」・・・と絶叫台詞が目白押し。お家でお稽古したら「あの家で何かが起こっています」と通報されるに違いないので思い切って「一人カラオケ」なるスペースに出張。一人で入るのにものすごおおく勇気がいりましたが行ってみタラバ何でもないことじゃ。受付のお兄さんは感じのええ方でのう、おのが機器を持ち込むことなど事情を話すと「それなれば」と孤立した部屋に案内してくれたにはおおきにじゃ。驚くほど狭い独房には歌うおのれの姿を映すカメラとモニタ、こはいかに(怖いカニ?)!?!? 即OFFじゃ。この叫び、閉所恐怖症の絶叫かと漏れ聞いた衆は思うたとか思わなんだとか・・・と 物語はめでたくしめくくられま せん。

 親が、心底愛する子供を我が手にかけるという、世間的には不条理な「事件」 でもそこにはまったく外の世界の私達の尺では計れない深い心の淵が口を開けています。そこにまっすぐ潜ってゆくのは自分でも恐ろしいし、果たして自分にできるのか、本当の叫びは絶叫の台詞ではなく 声にならない心でしょう。
 一瞬の狂気を呼び覚ます、魔性の太陽を私も垣間見られるのか、死と引き換えの心の叫び、死ぬ気になって空に届けたい、そして物語のその土地での上演が供養となりますように・・・・そんな思いで現地入りしました。

 深い緑に包まれた郡上大和明建神社の拝殿をそっくり舞台にしてしまうという大掛かりな演出、当日はお風呂をひっくり返したような大雨の中、ずぶ濡れになって舞台を設営してくださる土地の方々はじめチームの皆さんの情熱に支えられ、勘緑さんのダイナミックな人形遣い、心の底から響きあう音楽に、普段の源氏物語の語りではありえないような激しい語り口調、絶叫。。。
 人の哀切、口惜しさ、苦しみをくぐり抜けた慈愛、生ののぞみ死ののぞみ・・・この土地に籠もった無言の思いを言葉にし、音に奏で、声にのせ・・・発せられたそれら願いが世界を包み込むかような雨音を貫いて大いなる自然に受けとられてゆく 素晴らしい体験をさせていただきました。

 苦難に満ちた現世を一心に生きて離れてゆくいのちに、あはれと願いを以て鎮魂する人の営みがやがてのぞみという力にかわってゆく、本当の祭りとはきっとこうしたものではないかと、何に対しても等しくふりしきる雨は自然からの応えなのかもしれないと思いました。










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