スイス、リヒテンシュタイン6都市公演を終えて

 今年はスイス、日本両国の国交樹立150周年、記念事業の一環でスイス、リヒテンシュタイン6都市にお招き頂き、沢山の方に源氏物語をお聴き頂けました。

6月17日に出発、ジュネーヴバーゼルランド、ルツェルン、ウリ、リヒテンシュタインルガーノを巡りました。その後一人イタリアに5日間滞在、素晴らしい出逢いも得て7月10日に戻りました。

 主催者様のご要望もあって、ドラマティックな展開と一つの物語として成立している『夕顔』の巻を語りました。「もののけ」と心理との関わりなど、語りだけではわかりづらいところもあるので、今回も通訳の方を通して聞きどころをお話しし、テキストを小冊子にしてお渡ししましたが、それよりも言葉という垣根を越えて、言葉の響きを身体で感じて受けとめてくださったことに感激しました。
「ことのは」が私にくれる感覚を、この身体を通してどんな音にしていったらよいのか、海外で試されるそれは、言葉で繋がる日本に於いても同じ課題だと思います。ことばの意味が伝わるだけでは体験になり得ないからです。皆様が耳ばかりでなく身体を澄まして聞いて下さる様子が伝わって来ました。

 中には源氏物語を読んだという方もおられ、涙を溜めて抱きしめて下さった方もありました。
スイス在住の日本の方が、「物語の世界にのめりこんでゆくように映像が浮かんできて、小さい頃母が物語を読んで聞かせてくれた体験を思い出しました。」と嬉しいご感想を頂きました。
身体に残る記憶や感覚を今に呼び覚ましてくれる力が物語にはあると信じ、物語をよそ事ではなくそんなふうに自分事として聴いていただけたらと常々願っていましたが、こうしてお一人お一人の心の中に広がる物語世界に遊んでいただけたという喜びが次への意欲の一番の栄養になるのです。

 最終地ルガーノからミラノに入り、ここで素晴らしい方との出会いがありました。
このほど源氏物語を原文からイタリア語に完訳された、ローマ大学教授のマリア・テレーザ・オルシ先生に御時間を頂いてお目にかかれたのです。初めてのイタリア、ミラノ大聖堂スカラ座を見てまわり、ご自宅にお招きいただきゆったりと過ごしながら源氏物語の話に花が咲きました。
光と蔭がくっきりとしたイタリアでは源氏物語がどのように受けとめられるのか、先生のご苦労も伺い、そして、イタリア語ではどのように響くのか、先生にお願いして桐壺の冒頭の部分を朗読していただきました。
それは私の軽薄なイタリア語のイメージでは想像も出来ないほどやわらかで美しい響きでした。いつかきっと京都にお招きして、この美しいイタリア語の響きとともに語り会を実現させたいと思いました。
フィレンツェ、ローマ、ウフィッツィ美術館、ヴァティカンはじめ文化と歴史をめぐる一人旅を味わって、この期間悩まされた寝不足もなんのその、元気に戻って参りました。

 様々な意味で日本は今注目されています。日本人として誇らしく感じられない日本の姿もある中、古来の日本の文化は、人としてどのように生きるべきかを探ることをも私達に教えてくれるものだと思います。日本の文化の一端をお伝えする身と自覚して、これからも源氏物語をとおして学んでゆきたいと思います。























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