貝の火 予言の書

宮沢賢治の作品「貝の火」はこんなおはなしです


純粋な子うさぎのホモイがある日
川に溺れたひばりの雛を救います。
始めて遭遇するそのうごめくものの命にふれて
無垢なホモイはそれに畏れを感じます。
勇気を奮い立たせたうさぎはその後熱病にかかりますが
それが癒えた頃
ひばりの親子が御礼と共に 王からあずかったという
神秘の宝「貝の火」を持ってやってきます。
「あなたこそ、これを持つに相応しい。」

家族は喜び ホモイを誇りに思います。

貝の火は栃の実くらいの大きさの玉で
のぞいてみると見たこともないような美しさで燃えています。

「お手入れ次第でどんなにでも立派になる」という貝の火

翌日ホモイが森に行くと
これまで一緒に遊んだ動物たちがホモイを畏れ敬います。
自分を虐めた狐までが手のひらを返したように親しげで
みんながホモイの言うなりです。
ホモイはだんだんと思い上がっていきました。
狐にそそのかされていくつかの過ちを犯してしまい
もう神秘の火は消えてしまったかと思っても
いよいよそれは輝きを増すので不思議に安心し
ホモイも家族もそのことになれっこになっていきます。

そしてついに正体をあらわす狐
ホモイを思うさま操って 
助けてやったひばりを始め 森のみんなを恐怖に陥れます。
ホモイは恐ろしくなってうちに帰ると
貝の火の輝きに曇りが見えます。
おとうさんの提案で 一晩油に浸しておくと
翌朝には貝の火はすっかり様変わりしてしまっていました。
おとうさんもこの玉の扱いを知ってはいなかったのでした。

光を失った貝の火
やっと気づきました。
もともとこれはホモイが一つの小さな命を大切にしたから
ホモイの元にやってきた玉だったのでした。

ホモイは勇気を振り絞って狐に挑みかかり
罠にかかった鳥たちみんなを逃がしてやることに成功します。

みんなはホモイに感謝しますが
もう昨日までのホモイではありません。
貝の火だった玉は今では白いただの石ころです。
おとうさんが「さあ、笑ってやってください」
そういうと
様変わりした石は鋭い音を立てて割れ
けむりのように砕けた粉が ホモイの目に入り

ホモイはもう物を見ることができなくなってしまいました。
大好きなとうさんかあさんのお顔も
美しい緑の森も 朝日も星もせせらぎも。

おとうさんは言います
「それをよくわかったお前は、いちばんさいわいなのだ。
目はきっとまたよくなる。」

朝を告げる鐘が高く鳴って
物語は終わります。




ホモイがこの玉を持っていたのはたった六日間。
それまでこの貝の火をもっていたのは「獣」で
千二百年間だったとのことです。

地球の生命の歴史を一年に換算すると
人間が登場するのは12月31日の除夜の鐘くらいだそうです。

宮沢賢治のこの作品が弟さんの手によって世に出たのは1969年
日本が戦争という熱病を経て 輸入された夢のエネルギー登場に
期待を膨らませていたときでしょう。


ホモイという名はホモサピエンス
思い ということばにもかさなります。
重いという音にも。


貝 という音はなんでしょう。

 かい。

懐・・・魁  詮  界
   怪 
それとも 戒 
そして 悔
二つに割れる貝の火二枚貝を連想させますが
パンドラの箱が開くイメージにもかさなります。

賢治の生まれた北の地で この春
パンドラの箱が開かれました。


夢から醒めてホモイはあたらしい道を歩むことでしょう。
物語にこそ夢と希望は託されるから。
現実の私たちはどんな道を歩むのでしょうか。





貝の火
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