孤独に寄り添う松風の響

日々のあれこれを書こうと思いながら時ばかり経って
間近に迫った語り会
 
源氏物語第十八帖「松風」の巻


変らじと 契りしことを 頼みにて 
    
    松のひびきに 音をそへしかな


明石の君は源氏との契りの証しである女御子を明石の地で独り生み育て
三年の月日が過ぎました。
その間の明石君の心はいかなものであったでしょうか。

権勢家としての源氏の勢いはいや増し
女の子が生まれたらそれは国母となるだろうという予言の姫君が
明石に暮らしていることが源氏には気がかりでなりません。

源氏からの再三の催促で、明石君はまずは嵯峨の大堰川のほとりにある
邸に母君とともに移り住みますが、父明石入道は明石の地に独り残ります。
親の願いの成就と引き替えに、夫婦、親子(孫)の別れです。

自邸二条の院には紫の上。
上を憚って、なんとか言い訳をして大堰に向かい
三年の隔てを一夜にとりもどそうとする源氏。


  あの夜のことが、自然と思い出されるその折をすぐさんと、
  形見の琴の御琴をさし出すのどした。
  そこはかとのう、物がしみじみ思われますので、
  ようお泳えになれえで、掻きならしやす。  (松風の巻より)

明石君が心つないでいたものは
明石での別れの折 源氏が残していった 琴(きん)の琴。
三年の月日、源氏を待って、彼女は何度この琴をつま弾いたでしょうか。
源氏不在の明石の地で
気高い心も折れそうになるほどの心許なさ
そんな中 
風雪に耐える松林から吹いてくる風が寄り添って共に忍び泣くのを
明石君はきいてきました。
その松風が
父を残した明石と同様大堰の住まいでも
孤高の琴の響きに唱和します。

心と自然とが見事な調和を見せる美しい巻。
そして源氏は紫上と明石御方との間で
小さな姫をどう処遇するのか
それは 明石御方にとって身を切られるよりも辛い選択を迫られるものになるのです。

自在タイムカプセル キッド・アイラック・アート・ホール
今回会場は風吹き抜ける松林。
真っ暗な空間に
松風の響きが聞こえますように。


18(土)、19(日) 3時開演です。
詳細は以下に、あらすじもこちらにあります。

http://kyo-kotoba.sakura.ne.jp/kid.html

ホールへのアクセス

ホールの椅子も一新、心地よくお聴きいただけます。
お誘い合わせの上どうぞお運び下さいませ。