天地人を自省で糾う 夕映えの紫雲「薄雲」

Usgmo1s.jpg

深草の 野辺の桜し心あらば 今年ばかりは墨染めに咲け  (古今集

昨年の桜は本当にこの歌の心のようでした。

この土日に 源氏物語の『薄雲』の巻を語ります。
物語と平行して、平安時代の天変地異と現在が重なってみえます。

物語は重要な門をくぐります。

占いで帝の后となり国母になろうという明石の姫を引取り
紫の上が養母となりました。
明石御方の嘆きは察するに余りあります。
身分の低さを嘆く御方はその心とは裏に
誰の目から見ても高貴で優れた人柄なのが美しい皮肉です。

その年は天変がしきりにおこり
太政大臣が亡くなったのに続いて源氏の心の妻 藤壺の宮が崩御。 
源氏の嘆きの淵は桜をも墨に染めそうな深さです。
鈍色の雲が夕映えに輝く空は仏の来迎さながらに。
そして
この天変は何を意味するのか
源氏と藤壺の秘密を長年心に籠めてきた夜居の僧都
天の悟 と冷泉帝にその不義の出生を告白します。
実の父が臣下として自分に仕えているという異常さに
十四歳の帝の懊悩は譲位へと傾いてゆきます。
もちろん源氏はこれを固辞しますが
ここから言葉に出すことのない苦悩の親子としての絆が
お互いを結びつけて物語は続いていきます。

源氏はまた冷泉帝に入内させた養女 前斎宮
その母六条御息所へのくすぶる思いを恋情として表し
斎宮を困らせます。
(ほんとにこまったものですがこれには訳があるのです。)

源氏は栄華への上り坂に居ます。
けれどもそこにどれだけの罪と犠牲があることか。
源氏自身それを知らないわけではありません。
そうしていつもながら仏門に入りたいと心では望むのです。
しかしながらそうはならない実際がなんだかとてもリアルです。
まだまだ「欲」がたくさんあるのです。
人は哀しいですね。
心では思いながらエネルギーは違う方に向いてしまう。
今の世の中もそんなエネルギーの集合体のようにみえます。
それこそは生命力ではあるけれど
その生命力を自分の軸に近づけてゆくことが
生き物として大地に存在を許して貰っているヒトに
要求されていることではないかと思います。

物語の天変地異は 源氏に己を省みさせ
僧都を告白に導きます。
現在の天変地異は科学によって説明され納得されますが
それはヒトの行いと無関係でしょうか。

源氏物語は自身の心に問うというかたちで天地人を糾います。
天地の動きが人の意識を目覚めさせ変化させる
今起こっていることととても似ているような気がします。
源氏物語は もののあっぱれです。



14(土)15(日)
薄雲の巻
明大前 キッド・アイラック・アート・ホール TEL 03ー3322ー5564
午後3時開演 (開場2時30分)
入場料 前売り:2,000円 (当日:2,500円)