闇の気配 蛍の光


螢の巻を語り終えました。沢山のお運び、ありがとうございます。

六条院という素晴らしい環境の中、人知れず玉鬘の姫が 
源氏の大臣の恋情に困惑を深める巻。

火をおこさない限り、夜ともなると月星の他には明かりのなかったかの時代。
王朝人は闇の中、焚きしめられた香を頼りに五感を澄ませ
恋人の気配を聞きます。
几帳の向こうにいる恋しい方の吐息、衣擦れの音に 
指の動きさえ逃さない想像力が夜に翼を広げます。
京都の湿度の高さはこれを一層悩ましいものにしたでしょう。

源氏が自身の複雑な恋心を紛らすかのように 螢を放ち、
姫の美貌をその光に浮かび上がらせて弟宮兵部卿宮の心を惑わす場面は
あまりにも美しく有名で 美を求める人々の手で絵などに表されてきましたが、
この巻の要ともなっている「物語論」は声にして発するしかありません。

源氏の言葉でありながら、紫式部の考えが映しだされるこのくだりは長台詞で、
毎回自分の中でもちょっとスリリングに展開していきました。
そして最後に源氏が冗談めかして

「さて、かかる古事の中に、まろがやうに実法なる痴れ者の物語はありや。
・・・・・・いざ、たぐひなき物語にして、世に伝へさせむ
(こうした古い物語の中に私のような律儀な愚か者の物語はありましょうか。
・・・これまでに例のない物語にして世に伝えさせましょう)」と云いいます。

この言葉の通り、千年後に生きる私達は 
世界に類を見ない物語として源氏物語を受け取っています。
いったい紫式部という人はどんな人物だったのでしょうか・・・・。

馬弓の競技の場面では、夏の御殿の若女房達が、この季節の花である 菖蒲、おうち(せんだん)、撫子などの色をかさねた衣裳で着飾って物見をするというので、今回は少し明るい松葉色の無地の着物をまといました。
紫系を差し色にして かさねの色目では杜若の色でしょうか 
見物する女房としてはちょっと年かさで、舞台の照明が黄色みを帯びているので
色がとんでおりますが気分は菖蒲。撫子の若葉色・・・。
(その気になるのは大事な事でござりまする・・・!)

今回も少しだけ、原文の、源氏が螢を放つ段をお聴きいただきました。
キッド・アイラック・アート・ホールは真っ黒な異空間を味わえる劇場。
この漆黒に 皆様がイメージに浮かび上がらせて下さった玉鬘の姫君は
いかな姿であったことでしょうか・・・。


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声は言霊を活かし、鎮めます。源氏物語を京ことばで語りながら、
いにしへ ことのは 声の響き 色彩 香 有職などのなつかしいものを皆様と共有出来たらと思います。




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