京都有隣館 春秋の誉れ

4月21日、京都東山の私設美術館の草分け「有隣館」で「胡蝶」の巻を語りました。
女房語りの活動を支えて下さる京都の方々が企画して下さった語り会です。
現館長様の御祖父様が蒐集なさった美術品の数々が静かに気配を醸し出している館内。
開演までの時間、「蜻蛉(トンボ)の間」と呼ばれる洋室で珈琲サービスがあり
ゆったりとした時間にやわらかな珈琲の香が漂いました。
この蜻蛉の間、壁のファブリックにトンボが一面に”手刺繍!”されていて、
洋風の格天井は紅葉の木象嵌
床もトンボと紅葉の象嵌と寄せ木の格調高いお部屋でした。
控え室に使わせていただいたのはお隣の「蝶の間」。
こちらは壁の刺繍が蝶に、天井が桜。
ということで、この二つのお部屋が春と秋のお部屋だということが分かりました。

春と秋というとどちらも優劣つけがたい美しい季節、
源氏物語の薄雲の巻で、母六条御息所の亡くなった秋に思いを寄せる娘・斎宮の女御が
乙女の巻(この巻では秋好中宮)で、六条院 秋の御殿の紅葉を自慢したところから
春の上(紫の上)は春の到来を待ってそのお返しに心を傾けます。
そんな前段あっての「胡蝶」の巻。

時は春。簡単には身動きの出来ない中宮の代わりに女房達を春の御殿に招待し、
異国情緒溢れる演出と春の御殿の花盛りの様子に女房たちは熱狂します。
翌日の、中宮主催の大法会には春の上から見事な桜と山吹が
胡蝶と鳥の装束をした女童たちを以て献上され、その心憎いお返しに宮は折れ、
春に文字通り花を持たせる結果となりました。
源氏の君を軸に、女君達が見事な調和をとって、六条院御殿の誉れは翳りもない様子。

そんな「胡蝶」の巻を、丁度良い季節だからと選んだのですが、嬉しいことに
この優劣つけがたい春と秋のお部屋のある有隣館にふさわしい演目となりました。
館長様もお忙しい中最後まで通して聴いて下さり、興味深いお話を沢山お聞かせ下さいました。

宗教学者山折哲雄先生が、お忙しい中お運び下さり
終了後には大変嬉しいお言葉とともに激励して下さって、感激しました。
亀の歩みのわずかな進歩を感じてくださったようで、本当に嬉しい日となりました。

京都には筆に尽くせないほどの宝があります。人、場、歴史、もの。
そんな中で、いにしえのことのはを畏敬の中に声として発することの喜び、怖さ。
人や場や歴史やもの それぞれの望みが出逢うとき
時空は不思議な香をもって集う人々に共有されます。
そんなめぐりをまた遠くで望んでいる、私達を俯瞰するおおいなるなにかの存在を
感じたような春の京都でした。



ことだまのくに



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