賢木のきもの

前の巻で正妻葵が亡くなり、賢木では父桐壺院が亡くなり、
六条御息所は伊勢へ 朝顔は賀茂の斎院としてともに神域に。
焦がれる藤壺の宮は源氏の恋情を逃れ仏門へ。
賢木の巻は別れの巻です。

中でも伊勢への下向を決意した御息所に逢いに
神の斎垣を超えて向かう野宮。
嵯峨野の晩秋 枯れがれの野に虫の音も鳴き枯れて、
風の中、琴の音が絶え絶えに聞こえてくる
この情景はそのまま御息所の心情に重なります。
傷ついて、女としての御息所はもう息絶えそうです。
ほのかにみえる灯りは消え入りそうないのちの明滅のよう。

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死別、野宮の鳥居、法要、そして心の色 思いうごめく時刻はみな 黒
黒い絞りに野宮の荒涼とした浅茅が原をイメージした帯
重ね衿と帯締めの朱はその下に細く流れるいのちの脈
御息所の心の傷をイメージしました。
白蝶貝の帯留めは涙型。斜めに締めた帯締めから滑り落ちていきそうに。


手の届かなくなった源氏の『花』たち。
現実を正視しがたい源氏は身代わりの女朧月夜におぼれていきます。
自ら破滅するように、得体の知れない大きなものに抗うように。

そして次回は都に居場所が亡くなった源氏が侘び住まいをする『須磨』
いよいよ新しい展開です。

紫苑